− 大好きなお父さんへ…感謝をこめて−


森に面した、小さな街角に、交番があります
そこで勤務しているのが、藤川さん
1年前にこの街に配属がきまった、若手のおまわりさんです

藤川さん、今日は、お昼の後に、巡回にでかけます

藤川さん:「こんにちは、何か異常はありませんか?」
おじさん:『大丈夫ですよ、藤川さん、いつも見回り、ごくろうさんです』
藤川さん:「鉄工所の景気はどうですか?」
おじさん:『なかなか大変ですよ、最近は 不景気を逮捕してほしいですな』
藤川さん:「あはは、それは、商売の神様にでもお願いして下さいよ」

鉄工所のおじさんと世間話をしてから、
もうずいぶんと見慣れてきた小さな街のパトロール再開です

今日も夕方から降るかな、うーさぶぶ…
橋のとっての上にちゃっかりと置かれてる、小さな雪だるまを見て
藤川さんは思いました

橋を渡って商店街を過ぎた、少し人通りの少ないトコロでした

おや、道の真ん中で、男の子が泣いています

藤川さん:「おいおい、道路の真ん中で、危ないじゃないか
      ささ、こっちへおいで」
藤川さんは、男の子の手を引いて、道路の脇の路肩に腰をかけました
こりゃ迷子だな、それにしても、見たコトない男の子だ

藤川さん:「どうしたんだい?お母さんはどこにいるの?」
男の子は首を振るばかりです
藤川さん:「じゃ、ジュースでも飲むかい?それともお菓子がいいのかな?」
男の子は藤川さんの右手をギュッと、ただ、握ったままで、話しません

とにかく交番まで、連れて帰ろう

藤川さんは男の子の手をそのまま優しく引いて、交番に戻りました
途中、保育所の園児たちが、シャボン玉をしていました
男の子は、それを、とてもめずらしそうに、眺めていました

藤川さん:「よし、いっしょにアレ、やろうか」

藤川さんは、交番の炊事場でせっけん水とストローを作りました
自分で一回、シャボン玉を吹いて見せてから、それを、男の子に渡しました
男の子は、とってもかわいい顔をして笑うと、うれしそうに
シャボン玉を吹き始めます

小さく吹くとたくさんの シャポシャポシャポ
大きくゆっくりで、大きな シャポン

おいおい、おれよりもうまいじゃないか
藤川さんは、びっくりしました

男の子は、いろんな、そして、見たことのない
シャボン玉を何粒も何粒も、一生懸命、吹き続けます

ぼんやり、その姿を見ていると…藤川さんは
どうしてだか、感じたことのない感覚に、産毛が立ちました
なんだろな…
とうの藤川さんにも、全く、わかりませんでした
ぼんやり、ただその男の子を見ているだけで不思議な気持ちになるのです
仕事にならないな…


チリリリンッ!…

藤川さんは はっ としました
交番の電話が鳴っています

藤川さん:「ちょ、ちょっと待ってるんだよ」

カチャリ

藤川さん:「あっはい、はい そうですか それは良かった
       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

クリーニング屋のおばあちゃんからの、先日なくしたメガネが
見つかったとの電話でした

やれやれ、一件解決だな
藤川さんが交番の前に戻ると…

やや… 男の子がいません

と、まだ、たくさんのシャボン玉が辺りに舞っています
そして、その中の一番、大きな粒の中で…
あの男の子が、幸せそうに手をふっています

…… みつけてくれてさ ……
          ………… ありがとう …………

そんな声が、1月の空、舞い上がるシャボン玉から、聞こえた気がしました

藤川さんは、ぽかんと口を開けて、小さくなってゆくそれを、
ぼんやり ぼんやり 眺めていました




チリリリンッ!…

藤川さんは ビクンッ としました
また、電話です

今度は、奥さんからの電話でした

赤ちゃんができたのよ! って



…… みつけてくれてさ ……
          ………… ありがとう …………

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