森に面した、小さな町角に、交番があります そこで勤務しているのが、藤川さん 1年前にこの街に配属がきまった、若手のおまわりさんです 雨上がりの夕暮れ 自転車に乗って、町を巡回中の、藤川さん かしゅかしゅさささ… わざと、車輪で枯葉を 踏み鳴らしながら ペダルをこいで進みます 「冷たい風は、なんだか涙が出てきちゃうなあ」 と、ヒトリごとを言いながら 町のはずれにある公園にやってきました はじまったばかりの新しい季節の公園は 冷たく静かで… ブランコの下には ちいさな 水たまりができていました それは、秋の遠い夕焼けをうつした 涙のような水たまりです 「ふふ、ブランコさん、何か哀しいコトでもあったのかな」 藤川さんが、そう言いながら 休憩でもしようかと 水たまりをよけて、ブランコに座ろうとした その時でした 『うん、哀しいコトあったから泣いてたの』 どこからか、声が聞こえて びっくり、飛び上がり、辺りを見回す 藤川さん しかし、静かな公園には 藤川さん以外、だあれもいません 「おっかしいなあ」 もう一度、ぐるり、辺りを見回すと… また、すぐそこから、同じ声 『僕だよ、ほら、目の前のブランコ』 そう、それは、ブランコの声でした 藤川さんは、驚きながらも そこは、しょくぎょうがら、おどおど しているわけにはいきません 「ど、どうしたの? 哀しいコト、大丈夫かい? 原因調査しようか」 とっさに、発した藤川さんの言葉に、ブランコは答えました 『ぅうん、おまわりさん、ありがとう、大丈夫だよ 原因なんて、ないもの あるとしたら、秋のせいかなあ ふふ だから、犯人は、どれだけさがしても、みつからないよ …ただね、こんな日は、誰も、乗せたくはないな』 無人のブランコは秋の風に揺られ 三日月のように、9月の海を泳いでいました 「そっか、ごめんね、うん うん、僕もわかるよ、キミの気持ち そうだよね うん うん、だから、もう、行くね」 藤川さんはそう言うと ペダルを蹴って、帽子を深くかぶり 公園を後にしました 帰りの自転車は長い影 振り向くと 大きな夕日に照らされて あのブランコはとっても、真っ朱に見えました 「秋は、どこもみんな同じなんだなあ…」 ペダルをこぐ足をゆっくりに、藤川さん 今日は 少し遠回りをして 交番に帰るコトにしたのでした |
![]() |
![]() |
|
|
||
![]() |
![]() |
戻る
|
| Copyright(C) 2006 - 2008 naohide yoshikawa , All Rights Reserved |