森に面した、小さな街角に、交番があります
そこで勤務しているのが、藤川さん
1年前にこの街に配属がきまった、若手のおまわりさんです

季節はもう、すっかり、秋

交番の窓から見える、
大きなカキの木は、朱色の実を
たくさんつけています

藤川さんは、交番の机に
腰掛けて、新聞を広げています

地域面に目を通す、情報収集も
おまわりさんの重要なお仕事?
の1つなのです

【○□△新聞
 ・・・・・
 餌を求め人里に下りたクマの目撃情報と
 農作物や住民への被害が増えています
 ・・・・・
 昨夜未明
 農家のヒデさんが自宅の裏山で
 突然ツキノワグマに襲われました
 人里に出没するツキノワグマは近年、全国で急増しており
 今年はツキノワグマの餌となるドングリが凶作の年で
 冬眠を前に出没が増える恐れが強いとして
 役場が注意を呼び掛けています
 ・・・・・】

藤川さんは、窓の外をふらりと眺めて、言いました

「うーん…他人事じゃないぞ、これは…
 この辺りも、注意しないといけないからなあ」

ふと、窓の外
熟したカキの実が一つ
木から落ちるが見えました

近所の子供たちがやってきて
カキの木に手を伸ばし
実をとろうとしていますが
なかなか、カキの実まで届かないでいます

「ふふふ、よしよし、おまわりさんの出番だな」

藤川さんは、新聞を机にほおり出したまま
駆け足で、カキの木の下まで、緊急出動

「よーっし、順番に並んで」

藤川さんは、子供たちを順々に持ち上げて
カキの実まで手が届くようにしてあげました

もいだカキの実を、うれしそうに、ほおばる子供たち

そのほほも食べ頃のような、かわいい朱色です

子供たちは
大きな声で藤川さんに
ありがとうを言うと
元気よく走っていきました

「また、カキの実、とりたい時は、いつでも
 言いに来なよぉー」

藤川さんも、手を振りながら
負けないくらいの大きな声で言いました

「さっ、お仕事、お仕事、っと」

交番に戻ろうと振り返った時でした

見かけない男の子が、カキの木を見上げて
ぽつん、と、立っています

「なんだぁ、まだ残ってたのかぁ
 よしっ、じゃ、ほら」

藤川さんはさっきと同じように
その子を持ち上げて
カキの実をとらせてあげました

おいしそうに
カキをほおばる、男の子
カキに夢中で
服の前ボタンが、はずれちゃっています

「あらあら、風邪ひいちゃうぞ」

そう言って、藤川さんが
一番上のボタンをしめてあげた時でした

男の子の胸元に、綺麗な月の形が見えたのです

【ん?アザか何かかな…】

と、お尻のズボンから、まんまるしっぽが
飛び出しているじゃありませんか!

藤川さんは
小さく、クスッ…
笑いをこらえました

そして
男の子の頭をなでて、言いました

「カキの実、とりたい時は
 また、いつでも、僕のトコロへ、くるんだよ
 あんまり、うろちょろ、危ないトコへは
 いっちゃダメだよ
 最近は君たちには
 ぶっそうな世の中になってるんだから…」

コクッ、と
男の子は素直にうなづくと

森の方へ
てくてく、走ってゆきました

ズボンからはみ出た
おしりのしっぽは
ゆらゆら、揺れています


「そういえば、子供の頃
 秋、カキの木に実がなって
 それを全部もごうとしたら
 お父さんにしかられたな
 ちゃんと、動物達のぶんも残しておかないといけないって
 ツキノワグマやカラス、タヌキやキツネ、熟して落ちた実に
 小さな虫たちだって、頼ってる
 カキの実は人間だけのものじゃないんだって
 僕らはいろんな生き物といっしょにくらしてるんだって」


交番に戻って

机の広げっぱなしの新聞を、折りたたみながら

秋が以前より、さみしくなったと

藤川さんは、思いました

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