森に面した、小さな街角に、交番があります そこで勤務しているのが、藤川さん 1年前にこの街に配属がきまった、若手のおまわりさんです 「シャカシャカ…」 ペダルをこぐ音に合わせて、シャカシャカ…、と独り言 自転車での、パトロールは、藤川さんの日課です 今日も、みんなの安心生活防犯活動、街の見回りに出かけています 気持ちの良い3月の晴れの日曜日 「だいぶ、暖かくなったなあ」 すれ違う、街の人々の表情は、とってもほがらかで 街全体が春うらら、しっとりした、空気に包まれています 「もう、春だ」 藤川さんは、この季節特有の、何やらそわそわした気分で 住宅街にある小さな交差点にやってきました アスファルトのひび割れに、小さなタンポポの花が、ひとつ ちょこりんと、でも力強く、咲いています 【種はどこから飛んできたのかな? それにしても、こんなトコロで、よくがんばってるもんだよなあ】 藤川さんは感心しながら 「よぉーっし」 と、一声、ペダルをこぐ、つま先に、力を入れた、その時でした ふと、自転車の後ろに、違和感を感じます 「ん?」 ちょこりんと、黄色のワンピースを着た女の子が ちゃっかりと、自転車の後部に座っています 「あれあれ、おじょうちゃん、こんにちは どうしたの?」 藤川さんが聞くと、女の子はそわそわした様子で細いひとさし指を伸ばすと 『あっち、あっち… 春風の招待状が届いてね、1年ぶりに帰ろうと思うの』 と、言いました 「あはは… そりゃ、お父さんお母さん、心配してるだろうよ じゃ、おまわりさんといっしょに帰ろうね お家はこの近くかい?」 【小さな家出少女か… 1年ぶりとはからかって、言っているのかな… どちらにしても、親御さんはご心配なさっているに違いない とにかく、お家につれて帰らなくては…】 藤川さんは、事情は何も聞かないで、女の子をお家まで送るコトにしました れっきとした、おまわりさんのお仕事です 「こっちでいいのかい?」 藤川さんが聞くと、女の子は 『あっち、あっち…』 『あっち、あっち…』 『あっち、あっち…』 効率の良くない、でもかわいいナビゲーション 二人を乗せた自転車は、街のはずれにある公園までやってきました そこでは、女の子と同じくらいの子供たちが、元気に遊びまわっています みんな黄色の服を着ています すると、女の子は、自転車の後から、すとん、っと降りると ちょこりんと、かわいいおじぎをヒトツ うれしそうに駆けてゆきました 「なんだなんだ、ただ公園に遊びに来たかっただけなんだな 最近の子はちゃっかりしてるんだから、もう…」 藤川さんは、小さく微笑みながら、鼻の先をつまみました そして、見回りに戻ろうと、自転車をターンさせた時… ビュン! 一瞬、春風が強く吹きました 「わあ…」 公園のはずれの原っぱ一面に、タンポポの花が群生しています まるで、鮮やかなレモン色の大合唱団が、春歌を歌いに集まって来たよう 「すごいなあ…この街にこんなトコロがあったなんて… 知らなかったよ… あっ、勤務中、勤務中、いけない、いけない」 藤川さんは、自転車をこぎ出して でも、もう1度、公園の方を振り向いて、タンポポたちを見ました 「そういえば、同窓会の招待状が来てたな みんなはどうしてるだろう… …シャカシャカ…」 ペダルをこぐ音に合わせて、藤川さんは、また、独り言を言いました |
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