今日、雨が降っていた 雨、大雨 ソーイングケースのひっくり返った、無数の街針の中 僕は、季節と季節の合間を縫うように、歩いていました 水にぬれた銀色の道は、優しい音を奏でながら、 ピアノ線みたく、とてもまっすぐに伸びています 僕の赤い傘は、水の中 まだ、見ぬサーカスのように これからはじまる童話の街に、期待に胸ふくらませ、ひっかかっていました 僕はまだ…伏せ目がちに水たまりをけって、でも、いっしょうけんめい飛沫をあげて 逢いにゆきたいヒトがいます 銀色の道の大雨は強くなりやまず、スピードを増す星くずの行進 途中 透明な花が咲いていました そこに大雨をさえぎるものは何もなく その容赦のない冷たい群星に花はただ、細い体を震わせているだけでした 倒れやしないかと、ぼんやり横目で、その花を眺めていると 示し合わせたように花と視線が逢いました 透明な花はとても哀しい目をしていました 僕は、さしていた赤い傘を、花の上にそっと置くことは、できました 何かで、降りそそぐ寒さを覆ってあげることは簡単でした こわれないように、土ごと摘んで、 あったかいプランターに、すくってあげることだって、できました だけど、僕はそうしなかった 透明な花は、そんなことを望んでいない きっと、そんな不安定なところにいるのは、 何か理由があって、雨にうたれているのはそれをわかっていて 透明な花は、哀しさをあたためているのだろうと、僕は、思ったから いつか、それを大切なヒトに伝えるために… 誰にも言葉は通じないさみしさ わかってほしいはかなき想い 透明な花の気持ち、僕はとっても、わかるから 「お前もそうなんだよね、大丈夫だよ 僕さ、今、好きなヒトがいるんだ」 心の中で、花にそうつぶやいて、僕はもう、振り返ることなく、その場を去りました 「大丈夫だよ」 僕は、名前も知らないその花に、もう一度、そう、つぶやきました やがて、刺すような大雨は綺麗な青いアクリルで塗り替えられ… 晴れ渡る空にかかる、虹のアーチ そして… この虹の先に、いるヒト 待っていて ―キミに哀しい花をあげる 永遠に枯れることない、優しいナイフ…絶え間のない、 精一杯の僕のさみしさで、つきさしてあげる… そんなとても哀しい花を 今 キミに― |
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